良くあることだが、突然だった。
ちょっと急いでたんだよ。4時間目は終わったけど、授業の間ずっと寝てたんだ。
起きた時にはチャイムが鳴り終ってはや10分が過ぎていた。僕は鞄をまさぐったが……思い出した、今日弁当持ってきてなかった!
そう、今日は僕の好きなヤキソバパンの販売日。学食で人気ナンバーワンのメニューで、売り出されたらすぐに売り切れてしまう。
僕は教室を飛び出して、その日自分でもちょっと信じられない速さで廊下を駆け抜けた。
すれ違い様に「廊下走ってたらケガするぞぉ」と先生に言われたが、でも、全然聞いてなかったよ。
頭の中ヤキソバパンで一杯だったし。
で、案の定、見通しの悪いT字路で人にぶつかってしまった。
バランスを崩してそのまま僕は廊下を転がってしまう。
白いプリントがバッと宙に散らばり、廊下にはらはらと落ちていく。
――あちゃあ、やっちゃった。
起き上がって、自分の周りに落ちたプリントを拾い上げて集めながら、当たってしまった人に謝ろうと振り返る。
と、僕の目に飛び込んできたのは、お尻だった。
ピンクのパンティーをはいた、女の子のお尻。ぷっくりとして、優しげに白い、小振りなお尻。
四つん這いになって懸命にプリントを掻き集めていた女の子が、僕に気付いて振り返った。
そして、めくれ上がったスカートに気付くやとっさに裾を直して、その場に座り込んでしまった。
恥ずかしさからか、頬を赤らめている。
ちょっと気まずい雰囲気。どうあやまろうか……僕は戸惑ってしまった。
と、なんと彼女が先にこう言ってきたのだ。
「ご、ごめんなさい。私がぼーっとしてたから……」
彼女は心底すまなさそうに僕に頭を下げると、再び――今度はしゃがんで――プリントを拾い集める。
――そんな、悪いのは僕なのに……。
でも、とりあえず手早く自分の周りのプリントを集めて彼女に手渡した。それから一言、
「ごめんッ!」
そう言うと、僕はヤキソバパンが売ってる購買部に向かって再び走り出した。
* *
結局ヤキソバパン買えなかったよ。
僕が手にしているのは、野菜ハムサンド。僕が行った時、もうこれしかなかった。
敗北感を背に負いつつ、僕はT字路に差しかかる。……そうだ、さっき女の子とぶつかったところだ。
見ればまだ一枚プリントが落ちていた。
それを拾いつつ、僕は思い出してしまった。彼女のお尻。あれを見た時、僕は胸が高鳴り、喉元かカッと熱くなったのを覚えてる。
でも、あの時ちゃんと謝れなかったのが心残りだ。悪いのは僕なのに、向こうから謝ってきたのも、心残りだ。
ちゃんと謝りたい。その気持ちが僕を後悔に駆り立てる。
僕は再び歩き始める。歩きながら僕は、まだ彼女の事を考えていた。お尻の事もそうだが、今度は彼女の顔の事も思い出していた。
――あの時恥じらっていた顔、可愛かったなぁ……。
その時、僕はまた人とぶつかった。歩いていたから、お互いに転ぶことはなかったが、相手を見て、僕は驚いた。
そう、彼女だったんだ。T字路でぶつかった女の子。
彼女の方も驚いた様子だった。その頬も、先程のことを気にしているのか、また赤くなっている。
彼女はその唇を動かそうとする、でも、今度は僕が先に謝る番だ。
「ごめん、その……2度も……ぶつかって」
でも彼女はかぶりを振って、開こうとした唇を少しの間つむんでからこう言ってきた。
「いや、周りに注意してなかった私が悪いんです」
「悪いのは僕だよ」僕も首を振って謝る。「1度目なんか僕が突っ込んだばっかりにプリントまでばらまいちゃって……」
「ううん、悪いのは――」
僕はプリントを彼女に手渡す。
「これ、まだ落ちてたから渡すよ」
それからその上に野菜ハムサンドを置く。それからそのまま僕は廊下を走った。
しばらく走って、僕は彼女の方を振り返った。
僕から受け取ったプリントと野菜ハムサンドを胸に抱いて、彼女もまた僕の方を振り返って見ていた。
彼女の顔はうっすら赤くなったままだ。それから、スカートに隠れてはいたが、ぷっくりと突き出たお尻。
僕の胸の鼓動が激しくなる。体の中から熱いものが込み上げる。
あのコに、また会いたいな――。