バイトの帰り、ざわめく6時の商店街の中をとぼとぼと歩いていると、ふと知っている顔が目に入った。
僕の住んでいるアパートの下の階に住んでいるゆり子さんだ。僕が引越してきたときから、ご飯のおかずを持ってきてくれたり、相談相手になってくれたりいろいろとお世話になっている。
「ゆり子さーん」
僕が声をかけると、ゆり子さんのきれいな顔がこちらへ向いた。
「あら広君。バイトの帰り?」
僕が「ええ」と疲れたように答えると、ゆり子さんは「ふーん」とゆうように少し微笑みながら僕の顔を見る。
「あ、そ・・それで、ゆり子さんは、買い物?」
「うん、そうなの。ほら、見て!大きな大根」
そう言うとゆり子さんは、「ひょい」とその大根を一つとりあげた。
「うーんサラダに入れるには多いし、おろして食べるのもねぇ・・・
ねえ広くん、家寄っていく?お腹減ってるんでしょう。
おいしいの作ってあげるわよ。」と僕の顔を覗き込んできた。
「うーん・・・でも旦那さんが帰って来るんじゃ・・」
「・・・そうよねぇ。でも、今夜あの人遅くなるって言ってたんだけど」
「そうなんだ」
「ま、しょうがないか。無理言って広くん困らせるのも悪いし、一人で寂しく晩御飯食べよっと」
残念そうというか、つまらなさそうに言うと、石ころを蹴飛ばす。すねたようにつんと突き出した唇がなんか可愛い。
「ねえ、ゆり子さん」
「なあに?」
「何作ってくれるの?」
「うーん、鯖の煮つけしようと思ってたんだけど・・・もし、広くんが食べにきてくれるんだったら、ゆり子さん特製、おろしハンバーグ作っちゃうんだけどな」
様子を見るように横目でちらっとこっちを見ると、「ふふっ」といたずらっぽく笑う。
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